"「ドラえもん亡国論」将来のリーダーシップを問う"について


http://diamond.jp/articles/-/23781

さて、アニバーサリーイヤーなので本来なら目に止まらないような記事が目に入った。

ドラえもんというコンテンツは有名すぎる故に、こういう表面だけで
ドラえもんを理解しただけの人がいかにも人の怠惰の象徴のように書いたりする。


水戸黄門を観ていると権威主義に陥るとかと同じ論。


要するに持論をなるべく多くの人間に伝える手段として
メジャーなコンテンツであるドラえもんを利用しただけである。
何故なら、


そこには、苦労をしても、新たな価値観を創造したり、自ら道を切り開いていく力強さはない。
便利さに慣れてしまうと、自分は汗を流さず、なんでも思った通りのことを、
文句ひとつも言わないで実現してくれる『ドラえもん』がほしくなるものだ。


原作読んでたらこういう理屈は出てこないと思うから。


ドラえもんの道具というのは大体キャッチーな便利さの裏に、制限や注意事項が大体ついてくる。


そして、調子に乗りすぎたのび太が手痛いしっぺ返しを食らったり、
道具を奪って悪いことをしたジャイアンスネ夫が反撃されたりというのがドラえもんの定番だ。


加えて、道具に頼らず自立していく姿を描いた「さよならドラえもん」や「ドラえもんに休日を」

といったエピソードもある。


また、いかにも独創性が育たないような物言いをするが、のび太は道具の本来の使い方を超えた
アイディアを生かし、しばしば道具の持ち主のドラえもんを感心させたりもしている。


空が飛びたいな、という欲望にタケコプターが応えたとしても、
それを用いて何処へ飛ぶのか。夢の向こうに広がる夢。


ドラえもんを観て深海に、宇宙に、ミクロの世界に興味を持った少年も決して少なくないはずだ。
あんなこといいな、できたらいいな、と画面の中でいろいろな夢を実現したドラえもんを観て、
かつドラえもんが現実にはいないことを理解して、かつて画面の中で見た夢を自分が叶えよう、とした人もいるはずだ。


そして、リーダーシップに関して言えば、のび太も大長編で逞しいところを見せるところはあるし
ドラえもんも保護者然とした振る舞いを行うが、やはり剛田武を除いては語れまい。

「俺は歩く!のび太と一緒にな!」(のび太の恐竜)

「タケシさんなりにずっと責任を感じていたのね」(のび太の大魔境)

のび太、力を貸すぜ」(ドラえもんに休日を)


特に大魔境でのジャイアンはリーダーの影の部分というか、
失策の時の責任の負い方まで見事に描いているではないか。


世の中にはリーダーがいる。腰巾着がいる。

怠け者がいる。出来すぎるヤツがいる。

ドラえもんは一面だけを描かない。みんながそこにいる。



もちろん、ドラえもんの表面だけをなぞってのび太のダメなときみたいになった人間もいるんだろう。
と言うか、件の文章を書いた高橋潔という人間がドラえもんから得たのは残念ながらそれだけだったんだろう。
彼はタケコプターを得られたらそこで欲望が、向上心が尽きてしまうのだろう。


「アメリカ人はドラえもんが嫌いだ、怠惰だから」なんて10年以上前から聞く話だが、
では放送されている国ではリーダーシップの欠如が見られるのか?
子どもたちが放送前と比べて明らかに独創性やリーダーシップといったものが欠けているというデータがあるのか?
全ては「イメージ」で語っているに過ぎない。


そもそも導入部分と締めのところ以外にあえてドラえもんを引き合いに出す必然性が観られない。
要するに、有名コンテンツであるドラえもんをタイトルに用いることで(私のような本来読むはずもない人間含め)
目を引き、持論を披露したいだけなのだと思う。


加えて、クール・ジャパンなんて言葉をいかにもサブカルに造詣が深いかのように用いるが、
ジブリアニメや押井守作品などはともかく、ほのぼの系である
藤子F不二雄作品までクール・ジャパンを代表する二大巨頭の一つとするのは無理がある。


いかなるどん詰まりの状況にあっても、けっして希望を捨てず、あえて苦難に立ち向かい
昨日の敵を今日の味方に変えてしまう。


のび太とブリキの迷宮」「のび太の宇宙開拓史」「のび太の恐竜


いや、もうあえて挙げるのがバカバカしくなるぐらいドラえもんはそういうものを描いている。

昨日の敵は今日の友、というなら勧善懲悪の概念が自然と瓦解する雲の王国や竜の騎士が当てはまるだろう。


雲の王国も竜の騎士も、出来事の責任の一端をドラえもんは感じ、かつての敵をも救うために奔走する。
そこには、世界に本当は敵などいない、みんな同じ星の仲間だ。そういうメッセージが込められている。



そして、最後の最後に「それを言っちゃあおしまいだよのび太くん」的なことを言うと、


ドラえもんは「ギャグまんが」だ。
極めて子どもの心をつかむのが上手いのでしばしば「子どもに安心して見せられるアニメ」
の代表みたいになってしまったが、あくまでも笑わせるためのマンガであり教材でもなんでもない。



別に憂国でもアメリカと日本のリーダーシップの比較でもジブリ礼賛でもなんでもするがいい。


ただ、よく知りもしないドラえもんを引き合いに出すのは一切やめていただきたい。


ハッキリ言って至極不愉快だった。くたばれ。